リアルタイム波浪実況解析・予測の研究

本研究が目指したこと

波浪予測値の利用価値

 波浪予測は、その予測のリードタイム(予測工程に着手してから全ての工程が完成するまでの所要期間)、予測期間、利用目的によって予測値の利用価値が決まります。

 大型船の運行や、ケーソン据付等の港湾・海洋工事に対しては3~4 日先の海象状況によってそのスケジュールが予定されます。海水浴・サーフィン・ヨット等の海浜・海域利用では2~3日先の海の状況によって外出するかどうかの判断がなされます。漁業においては、当日や刻一刻と変化する海の状況に応じて、常に安全策を講じなければならなりません。

研究の背景

 災害発生時あるいは災害が予想される時点において、波浪がどのような状況になっており、これからどの程度継続するか、どのように変化するか、現在および数時間先の状況を把握するためのリアルタイムな波浪実況解析・予測が求められます。

 しかし、緊急時の速やかな状況把握の基本となる実況観測値については、国内最大の波浪観測網である国土交通省による全国港湾海洋波浪情報網(ナウファス)でさえも、観測機器は全国55ヶ所(2019年時点)しか稼働されていません。気象庁の沿岸波浪計が設置されているのは6ヶ所(2019年時点)のみです。観測点がない場所については、現況を把握する術がありません。

観測機器がなくても波浪状況を把握する

 本研究は、観測機器が設置されていない地点においても、波浪状況がリアルタイムで把握することが可能となり、かつ数時間先の状況まで把握できる予測システムを目指したものです。


リアルタイム波浪実況解析・予測について

リアルタイム波浪実況解析という考え方

 リアルタイム波浪実況解析とは、波浪の実況を、波浪計による観測値で把握するのではなく、推算により把握するというものです。そうすることにより、波浪計の設置点に限らずあらゆる地点、あるいは平面的に波浪の現況を把握することが可能になります。さらに、波浪計による観測で起こる欠損のリスクを心配することなく、現況を把握することができるようになります。

当社のリアルタイム波浪予測とは

nearhwjpr0667.png リアルタイム波浪予測に求められることは、予測精度が高いこと、予測にかかるリードタイム(予測工程に着手してから全ての工程が完成するまでの所要期間)が短いこと、予測値が最新の波浪実況解析値(初期値)を基に最新の風情報により修正されて更新され続けることです。

 従来の「リアルタイム波浪予測」と呼ばれている技術は、観測と予測のシステムが別個になっているため、過去のある時刻に出された予測値が最新の観測値で自動的に補正されるような連携は図られていません。そのうえ、予測のリードタイム(予測工程に着手してから全ての工程が完成するまでの所要期間)が長く、波浪予測情報は1日に2回しか更新されず、真のリアルタイム予報ではありませんでした。

 当社のリアルタイム波浪予測は、当社独自のノウハウによりこれらの問題を解決ただけでなく、運用面やユーザの利用面まで考慮した、より実用的なリアルタイム波浪予測を実現させたシステムです。

実用的なリアルタイム波浪予測

 当システムが実現させた“実用的なリアルタイム波浪予測”とは、以下のとおりです。

  1. 風と波の最新実況解析値で予測値を毎時間修正し、高精度、高信頼度を保つ
  2. リードタイムの短縮で、波浪計による観測値よりも現況を早く把握できる
  3. 波浪計が不要なため、提供地点に制限がない(理論上は約17万ポイント)
  4. 観測データを基に予測された結果と同程度の精度がある
  5. 安いランニングコストで運用できる
  6. 波浪計の破損や不具合による情報欠損リスクを回避できる
  7. 画像表示を速やかに行える

リアルタイム波浪実況解析で、任意の地点の現況を把握

 気象庁が設置する波浪計は全国6ヶ所、国内最大の波浪観測網であるナウファスは55ヶ所(2019年時点)と、波浪観測データによる現況把握には限りがあります。当社のリアルタイム波浪実況解析は、日本近海のあらゆる地点の波浪をリアルタイムに解析し、波浪計のない地点の現況も把握できます。

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地図上から任意の場所をクリックしてリアルタイム波浪予測情報を見られるバーチャルブイアプリケーションと地図を組み合わせたバーチャルブイマッシュアプ

現況を基に修正した波浪予測を毎時間更新

 独自のノウハウで推算された波浪の実況解析値を基に、最新の風情報により数時間先の波浪予測を毎時間更新することで、信頼度の高い波浪予測の提供を実現しました。

高精度な波浪実況解析・予測データを安価で提供

 波や風を観測する機器を不要とするため、観測器とその運用に関する費用がかかりません。また、GUIオープンソースライセンス下でのOSやソフトウェアを使用し、なおかつクラスターコンピュータを用いることで、ユーザに安価で提供することを実現しています。

実況解析・予測データを画像ファイルでも提供可能

 一般ユーザが情報を簡単に理解できる画像表示を行えるように、短時間で画像化して配信できる書式にデータを変換してあります。これにより一般ユーザが主体的に情報を判断し、災害防止やマリンレジャーに役立てることを目指しています。

 画像化したリアルタイム波浪予測データを使用している例が、当社が運営する個人向け気象情報サービス『 マリンウェザー海快晴 』です。

波浪計よりも安定した情報提供が可能

 波浪計は、風浪による故障、通信機器の不具合、老朽化などで配信停止の事態が起こることがあり、復旧には数ヶ月から数年かかる例がめずらしくありません。実際に、国内最大の波浪観測網(ナウファス)でさえも、常に数か所から十数ヶ所の波浪データの配信が止まっているのが現状です。しかも故障や不具合の多くは、波浪情報が特に必要な「しけ」のときに起きています。

 一方、当社のリアルタイム波浪実況解析・予測は、インターネット回線が長時間断線するというほとんど起きることのない事態が起きない限り、情報配信が何日も停止することはありません。プログラムの破損やサーバの故障が起きたとしても、バックアップで速やかに復旧させることができます。

ekouhou.netの下記URLより特許全文が確認できます。
『波浪予測システム』

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発表論文一覧

リアルタイム波浪予測

Memo.png毎時大気解析GPV を用いたリアルタイム波浪予測システムの開発とその検証,海岸工学論文集,第55巻,pp.156-160.
Tracey H. Tom・間瀬 肇・安田 誠宏

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富山湾沿岸より回り波

Memo.png富山湾沿岸に災害をもたらした2008年2月冬季風浪の予測と追算シミュレーション,海岸工学論文集,第55巻,pp.186-190.
間瀬 肇・安田 誠宏・Tracey H. Tom

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GFS- WRF-SWAN援用波浪予測

Memo.pngGFS-WRF-SWAN システムによる3シーズンの波浪予測とシステムの検証,海岸工学論文集,第54 巻, pp.109-114.
間瀬 肇・勝井伸悟・安田誠宏・Tracey H. Tom・小川和幸

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援用波浪推算システムの構築

Memo.pngGFS-WRF-SWAN援用波浪推算システムの構築と検証,海岸工学論文集,第52 巻,pp.181-185.

間瀬 肇・木村雄一郎・ Tracey H. Tom・小川和幸

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ハリケーン・カトリーナ高波解析

Memo.pngハリケーン・カトリーナによる高波の解析,海岸工学論文集,第53 巻,pp.421-425.
Tracey H. Tom・間瀬 肇・勝井 伸悟・安田 誠宏・小川 和幸

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Wave forecasting system

Memo.pngWave forecasting system for seas surrounding Japan, Proc. 5th Int. Symp. WAVES 2005, ASCE, Paper Numer 141, CD-ROM, 2005.
Tom, T.H., Ogawa, K. and Mase, H.

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